鷹の爪の垢を煎じて飲む ~sideR~

群馬県の片隅から書き綴る、軟らかめのブログです。「R」には鉄道の“R”ailway 、福岡Yahoo!Japanドームや西武ドーム、クリネックススタジアム宮城での“R”ight stand .....といった意味が込められてます。堅めのブログは「sideL」にて。

『ラーメンと愛国』

以前、ツイッター上でとあるフォロワーさんから「面白いので是非」と、2冊の本を紹介されました。
うち1冊はすぐに近所のブックオフで手に取る事ができたのですが、もう1冊の方はその時手に入らなかったのです。
ですが久方ぶりにブックオフに行きましたところ、丁度本棚にあったのを発見!
すぐに手に取ってレジでお会計したのが↓の本になります。

ラーメンと愛国 (講談社現代新書)

ラーメンと愛国 (講談社現代新書)

こちらの著書、全般を通してラーメンを巡っての戦後史として綴られておりますが、『ラーメンから現代史を読み解く』という帯の文章が示すように、中国大陸から日本に伝来されたラーメンは如何にして“国民食”として親しまれるようになったかの過程、そして時代の進展とともに、どのように日本独自の「ラーメン文化」を発展させていったのかが解りやすく書かれていて、とても興味深く拝読する事ができました。
特に第5章にあたる『ラーメンとナショナリズム』において、90年代以降の時代背景とラーメンとの関わりについて述べられており、読んでいて思わずなるほどなぁ、と唸ってしまった次第であります。

中国由来の「ラーメン」は如何にして“和”の装いを纏ったのか

「ラーメン」という食べ物自体が中国大陸由来である事に関しては、皆様もよくご存じのことと思います。
  
    ラーメン - Wikipedia

その説明に関しては上記↑に譲るといたしまして、著者である速水氏が“日本の地に定着したラーメンが、(90年代以降に)それまでの中華風の装いから和風の装いを纏っていった”と指摘している点については、実感として大いに頷けるところです。
本文中では、昨今の人気ラーメン店に見られる傾向として

○店主および店員が作務衣姿、もしくは黒か紺系のTシャツ姿
○「麺屋」等の漢字店名を用いる
○昔ながらの、雷紋の入ったいわゆる「ラーメン丼」ではなく、
 黒や紺色の器を用いている

といった事を挙げています。
作務衣と言えばつい「蕎麦屋さん」を連想しがちですが、ラーメン界隈での「名店」と呼ばれるところがそうしたスタイルを採用しだしてから、急速に普及していったのだろうと思われます。
もはや「蕎麦屋」と「ラーメン店」との境界が近づきつつある、のかも知れません。

外国由来の料理が日本でアレンジされて定着していった例はあまた数多くの例があるのですが、こと中華料理の代表選手と思われていたラーメンが、なぜこれ程までに“和風”へと変化したのか。
いや、長年の歴史によって“日本文化へ同化”していった、と言った方が正しいのか。

『由来』や『伝統』は問わない?

著書の中では、第5章において「(浅田彰氏の)表層的な模像としての日本への回帰」と「(大澤真幸氏の)文化的・趣味的共同体としてのナショナリズム」の2つのワードを用いて、この事象を読み解こうとしています。
旧来のスタイル(白のコック服姿、雷紋の入ったラーメン丼)から、和のスタイル(作務衣やTシャツ姿、和風の丼)への変化を“表層的な模像としての日本への回帰”の流れの中で起きた事とし、中華料理由来であるのに、その伝統から途切れて独自の発展を遂げても「問題視しない」とする“文化的・趣味的共同体としてのナショナリズム”。
著者はそれをもとに、現代の日本で起こっている事象をも読み解いています。話の展開が実に面白い。

つい最近、興味深い調査データを目にしました。

  ご飯のお供調査 1位明太子、2位納豆、3位梅干、最下位キムチ
  瞬刊!リサーチNEWS http://shunkan-news.com/archives/7177

調査対象が4項目しかないのは調査としてどうなの?というツッコミはさておき(笑)、ランキングでは1位の明太子(辛子明太子)が、4位のキムチに対して約5倍のポイント差を付けています。
この明太子人気、他の同じようなランキングでも同じ結果だったりします(フジテレビでかつて放映されていた「トリビアの泉」でのランキングでも、明太子が1位だったのは記憶に新しいところ)。
辛子明太子も実際は朝鮮半島由来の食べ物であり(→辛子めんたいこの話)、唐辛子調味液に漬け込むのと薬念に漬け込むのとの違いがあるとは言え、明太子もキムチも基本的製法に関しては同じです(かなり乱暴かもですが)。
しかしながら、なぜこうも日本国内において両者の間に差がついてしまったのか。
(日本人の味覚に合うような)明太子の生産に携わった日本人の努力の成果もありますが、その努力の成果として明太子自体が“和の装い”を纏う事に成功し、それが人気に繋がった・・・・・・と見る事もできます。
これは外来からの伝統であってもそれを問題視しない『文化的・趣味的共同体としてのナショナリズム』の一つの例と言えましょう。

グローバリズムでもナショナリズムでもない“第三の軸”

世界的なファストフードチェーンにおける展開戦術に代表されるような「食のグローバリズム化」と、それに対抗しうる形での「食のナショナリズム化」。
そうした流れの中で、国民食となり、和の装いを纏ったラーメンは“日本食文化(=食のナショナリズム)の砦”として人々から選択されたのでしょうか。
ただ、遺伝子組み換え食品の流入が危惧されている『食のグローバリズム化』は問題であるのですが(映画『モンサントの不自然な食べもの』公式サイトを参照)、『食のナショナリズム化』もまた、自国以外の食文化の否定や閉鎖的な食文化を招きかねないのでは?という危惧もあるように私は思います。
以前、シンガポールにおいてカレー料理の匂いにクレームが付けられたと聞き、すぐさまカレー料理を作るイベントを開いてそれに対抗した、というニュースを見聞きした事があります(ちょうど「反フジテレビデモ」と同時期でした)。
 ※ソース→シンガポールで6万人が「カレーの日」に賛同、多文化共生を訴え
反フジデモのあった時期でもあり、このニュースを知った時には思わず深い感銘を受けたのを、つい昨日のことのように記憶しております。

最近では日本においても、同じような動きが出現しています。
  急進美食連合 在特会総本舗 https://twitter.com/ztk2100
これは新大久保においてのデモ活動(先日遂に逮捕者も出ました)を受けて開設されたものと思われますが、“美味しいものを食べて、世界各国の人々と仲良くなる”というコンセプトは、先に取り上げたシンガポールでのカレー料理イベントと共通していると言えましょう。
こうした「多文化共生(共存)」を模索する動きは、グローバリズム化やナショナリズム化に対抗しうる“第三の軸”として機能するであろう、と見ています。